不動産賃貸トラブル

原状回復義務のトラブル(通常損耗特約等)

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契約書に特段の取り決めがない場合の原状回復義務

賃貸借契約が終了する際には、通常の使用収益によって生じた賃貸目的物の損耗や賃貸目的物の経年変化、賃借人の責めに帰すことができない事由により生じた損傷については民法上賃借人は原状回復義務を負わないものとされています。
例えば、法務省では例として以下のようなもの基準をあげています。

・原状回復義務があるとされるケース
引っ越し作業で生じたひっかき傷
日常の不適切な手入れや用法違反による設備などの毀損
飼育しているペットが柱などをひっかいたりした傷
ペットのにおい
たばこのヤニやにおい


・原状回復義務がないとされるケース
家具の設置による床やカーペットのへこみ・設置跡
「電気ヤケ」といわれるテレビや冷蔵庫などの後部壁面に生じる黒ずみ
地震で破損したガラス
鍵の取り替え(鍵の紛失や破損がない場合)

通常損耗特約

通常損耗については、何らの取り決めもない場合賃借人において原状回復をする必要はありませんが、では、当事者間でかかる通常損耗を賃借人が原状回復する義務を負うと定められている場合は如何でしょうか、以下判例を引用します。
「賃借人に通常損耗の原状回復義務が認められるためには少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているが、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とした。

具体例

(1)特約条項否定例

➀特約条項に「借主は本貸室を事業用の事務所として賃借するため、本契約書第20条に基づく解約明渡時における原状回復工事は、床タイルカーペット張替、壁クロス張替え、天井クロス張替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする」との記載があった事案で「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているとは認められないとして、通常損耗特約の成立を否定した」

②契約に先立ち入居説明会という名目で補修費用の負担基準等についての説明が記載された「すまいのしおり」と題する書面を配布し、退去時の補修費用について、負担区分表に基づいて負担することになる旨の説明をしたが、負担区分表の個々の項目についての説明はされなかったが、賃借人は負担区分表の内容を理解している旨を記載した書面を提出している。そして負担区分表には例えば「各種床仕上材、生活することによる変色汚損破損と認められるものについては賃借人が負担するものとしている」などと具体的に項目毎に記載されていたケースで、裁判所は、原状回復に関する約定はあるが、通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。また、本件負担区分表についても、通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえないとした。

(2)特約条項肯定例
➀特約条項に「この契約が終了する時は、賃貸人は保証金を以て賃借人が表示物件に設置した造作、内装、その他の設備、物件を撤去し、且つ又その他の施設即ち床、壁を完全に新たにし、天井をペンキ塗装し、賃貸人の判断により備品、付属品に破損異常があれば修理し或いは清掃し、エアコンはオーバーホールし、表示物件を事実上の原形即ち入居時の状態に回復する」と記載されている事案で、賃貸借契約の締結に先立ち、上記特約について重要事項として説明書を交付していることから、原状回復義務の対象が明確であり合意が明確になされていることから有効であるとした。

オフィスビルの賃貸においては、居住用賃貸借契約の場合と異なり、次の賃借人に賃貸する必要から、賃借人に通常損耗か否かを問わず原状回復義務を課す旨の特約を付す場合が多いことが認められること、原状回復費用額は、賃借人の建物の使用方法によって異なり、損耗の状況によっては相当高額となることもあり、その費用を賃借人の負担とすることが相当であること等から敷金の一定額を通常損耗を含む損耗破損等の修復費に充てる目的とするものとして有効とした事例と、居住用賃貸借契約の場合と異ならないとした裁判例があり、裁判例の集積がまたれるところである。

原状回復義務の立証責任

原状回復というからにはその「原状」がいかなるものであったのかがわからないことには賃借人には原状回復のしようがないので、賃貸人は「原状」について立証する責任を負う。
従って、賃貸人は「原状」を証拠をもって主張するために、賃貸前に写真や動画等により撮ったものを契約書に別紙として含ませる等の対応をしておく必要がある。

要約

原状回復義務については必ずといっていいほどその範囲をめぐってトラブルになりうるものであり、その範囲を契約書に明確に記載し、別紙で賃借人に原状回復義務について了解した旨の覚書に署名して頂く等の対応が必要であろうと思う。特に通常損耗特約を締結する際には、その範囲を明確にした上で、本来回復義務のない通常の損耗についても負担頂くことについての覚書に署名して頂く等の対応をしていくおくのが無難である。

 

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