子ども・高齢者・障害者

施設における人の管理責任(外出編)

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施設を管理する者は、入所者に対して、利用者の生命、身体、財産を守る義務を負うところ、高齢の場合には身体が弱かったり、或いは認知症により徘徊したりするなどにより健常者とは異なることによるリスクがあるため、施設側においてどの程度までリスクを管理するべきかが問われることになる。

裁判例➀

➀介護老人保健施設に入所中の95歳女性が、部屋のポータブルトイレにある排泄物が、本来は職員が定期的に捨てるところ、事故の日は捨てることを失念していたことにより、自ら捨てようとしたところ、出入り口付近の仕切りに足をとられて転倒し、骨折したと言う事案で、施設側に排泄物を処理する義務の不履行についての責任、高齢の者が徘徊しうる場所に仕切りを設けていたことについての工作物責任を認めた。

考察

工作物責任とは、物、施設等が危険性を有する場合に、それにより事故が発生した場合その物或いは施設の所有者、管理者は責任を負うというものであり、本件では高齢者がつまづいた仕切りはそれほどの大きさではないが、高齢者が利用するという条件をつけたときには、危険性を有するものとして施設側の責任を認めたものである。
従って、施設等において一般人の観点からは何らの問題もないが、要介護者や認知症患者、子ども、精神障害者等との関係においては、危険性を有する物、施設等はないかについて常に施設側は配慮する必要がある。

裁判例②

入所者の認知症の程度が重く、1度本件施設の外に1人で出てしまうと、自力で本件施設や自宅に戻ることは極めて困難であった入所者が、介護職員が目を離したすきに外に出て約3日後に死亡しているのが発見された事例。
本件施設の管理者は、1度介護職員の目を離れて、本件施設の外に出てしまえば、入所者の生命、身体に危険が及ぶことは容易に予測できたこと、入所者が施設側に対して家に帰りたい旨述べていたこと、出入口や窓、そこに付いている鍵を開けようとしていたこと、外に出ようとしていたことがあり、これらの当時の事情を考えると、具体的な防止措置としては、本件脱出した扉のようにつまみを回せば簡単に鍵が開いてしまうようなところに関しては、少なくとも、ドアが開いた場合に音が鳴る器具を設置するなどして、入所者が外に出た場合には、施設職員が直ちに気付くことができるような措置を講じておくべきであったのであり、これに違反したとして責任を認めた。

考察

本件では、認知症の程度が重く、放っておけば徘徊して戻ってこれなくなる可能性があるといった場合に、施設側はどこまでの管理責任を負うかというのは問題となったところ、従前より入所者が徘徊する癖があることを知っていた場合には、施設外に出ないようにする責任が施設側にあるとしたものである。従って、このような重度の認知症の入所者がいる場合には、施設側としては、監視する職員を増やすか、或いは物理的に外に徘徊することができない体制を撮っておく必要があることになる。

裁判例③

障害者支援施設に入所中の患者が失踪した事件で、患者は、事理弁識能力に何の問題もなく、また、運動能力も正常であったのであり、何者かに連れ去られたことをうかがわせる事情がないこと、過去に無断外出がみられたことなどから、患者は自力で脱走したものであり、施設職員に脱走についての予見可能性がなかったこと、服薬管理等の義務や施設内での事故対策義務に違反はなかったとし、施設側に責任はないとされた。

考察

心身の能力が健全な入所者が失踪した場合の管理責任が問われた事例で、具体的に失踪する兆候等はなかったことからこのような場合にまで施設側に責任を認めるのは困難であるとして施設側の責任を認めた。これが事理弁識能力に若干劣る幼稚園、障害者等であった場合には、施設の外に出ないようにする管理責任まで問われるかもしれない。

裁判例④

認知症の76歳の女性が施設から抜け出し、当日深夜に外で死亡していたという事案。
本件事故当日、本件施設においては、28名の施設利用者に対して9名の職員が対応をしており、この人員体制をもって、当該女性を含む本件施設利用者の動静を見守るための体制として不適切ないし不十分であったとはいえない。
そして、本件事故当時は昼の時間帯であり、9名のうち4名が昼休憩をとり、5名の被告職員のみで対応をしていたとはいえ、これは昼休憩時の一時的な状況であって、限られた時間であれば、5名の職員によって本件施設利用者全体の動静を把握できない状況であったとは必ずしも認められないから、本件事故当時の本件施設における人員体制をもって、利用者が本件施設を抜け出すことを防止するためのものとして不適切であったとまではいえない。
また、本件施設の出入り口にはデイサービスエリア正面出入り口を除き、人の出入りを音で知らせる器具等は設置されていなかったものの、上記人員体制の下、職員が本件施設利用者の動静を適切に見守ることにより、本件施設利用者が本件施設を抜け出すことを防止できることからすれば、本件非常口に正面出入り口と同様の器具等を設置していなかったことをもって、物的体制の不備とまでは認めるに足りない。
したがって、施設側において、人的・物的体制の整備を怠った注意義務違反があるとは認められない。
しかし、当該女性には徘徊癖があって、本件事故当日においても帰宅願望があり、職員は誰一人として当該女性の上記行動を注視せず、当該女性を本件施設から抜け出させているのであって、監視義務についての違反を認めた。

考察

重度の認知症の方が徘徊して施設の外に出た事例であるが、裁判例②とは異なり、施設の物的設備については問題なしとされたが、職員が足りていたにも関わらず、具体的な監視体制が不十分であったことから施設側の管理責任を認めた。

要約

施設において責任が認められるかどうかについては、入所者の状況(認知症、徘徊癖、帰りたいという願望等)、施設側が把握している情報、管理体制、物的状態(出入り口にブザーがあるか等)によることになる。従って、施設側としては、常に入所者との関係でどのようなリスクがあるかを想定し、リスクについて最大限備えておくことで、万が一事故があったときに責任を免れる体制をとっておくことが重要であるとともに、結局は、そのような備えが最大の事故への備えとなることになることを知っておくべきである。

 

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